
第73回 97.12.14くらい 『オフサイド』
しかし、なんだってわたしが代表に選ばれないのであろうか?
ああ、ども。わたしの名前はみやちょ。サッカーをすることが仕事である。ポジションは、攻撃的MFだ。こう見えても、ドリブルにはちょっと自信があるのだ。わたしのドリブルがどれ程のものかというと相手選手も恐れる程である。
わたしのドリブルは、フェイントに特徴がある。相手をかわして前に進む時、突然「わっ」と叫ぶのだ。相手選手はビックリして一瞬止まってしまう。そこを抜いていくのだ。外人選手など、「テリブル」と叫ぶ程なのだ。ドリブルやっちゅうに。
こんなにすごいテクニックを持っているというのに、代表に選ばれないのだから不思議である。もっとも、今はドリブラータイプの選手は、代表に選ばれにくいのだ。しかたがない。FWならいざ知らず、MFは厳しいのだ。中田とか名並とかパサーが重宝される時代だもんなあ。前園なんてすっかり存在感を失ってしまった。CMにも出なくなってしまった。
まあ、今のバージョンのラ王のCMが前園だとしたらイヤだけどね。いや。あの男でもイヤだ。やはり、ラ王のCMには女の子を起用して欲しいものだと切に願う。
なんてことを考えてたら、電話がかかってきた。どうしたのだ? ラ王のCMが女の子バージョンに変わったのか?
と思ったら、岡田監督である。なんだ。チェッ。
……チェッじゃない。どうやら、わたしにも代表のお声がかかったのだ。いやあ。ほとんどあきらめていたのだが、やはり、岡田監督は見る目が違うようだ。いや。ホントは加茂前監督の時も選ばれるはずだったのだ。
ただ、みんなでカラオケに行ってから様子がおかしくなったのだ。加茂前監督が急に冷たくなったのである。あの時、たしか上田正樹の歌を歌ったのだ。しかし、それは誤解である。間違っても「カモシュウ、エロやね」などとは言っていないのだ。
さて、こんな無駄話をしている暇は無い。早速、特訓である。特訓と言ったら山ごもりなのだ。山ごもりをするには、ひとつ問題がある。それは熊である。今まで山ごもりをすると言って、熊に襲われたサッカー選手はカズ知れずなのだ。
しかし、わたしの場合、いきなり熊に襲われる羽目になっても大丈夫だ。わたしには、得意技のフェイントがある。これには熊も恐れるというヤツだ。ちなみに、このフェイントは、「またぎフェイント」と呼ばれている。昔からの得意技なのだ。なにしろ、昔使ったネタなのだ。ハハハ。
実は、もうひとつ得意技があるのだが、これをやると日本経済に悪影響を及ぼすことがわかったので封印している。最近これを使ったら、拓銀や山一の件があったのだ。住専の時にもしやと思ったが、やはり間違いない。その技は、「暗い負担」というのだ。まあ、二度と使うことは無いだろうて、知る必要はない。
まずは、軽くリフティングから始よう。何を隠そう、わたしはリフティングも得意なのだ。うまくいけば、20回以上できるのだ。何しろクラマー氏の直伝である。
クラマー氏というのは、かつて日本がメキシコ・オリンピックで銅メダルを取った時のコーチである。そのクラマー氏にご指導願ったのである。クラマー氏は、基本を非常に重要視した人である。「サッカーの基本は、リフティングにあり」といっては、朝から晩までリフティングをやらされたのだ。
見ろ。このアクロバティックなリフティング技術を。角兵衛獅子も真っ青だ。ちなみに、このクラマー式リフティング、略して「クラマティング」というのだ。
さて、リフティングばかりやっている場合ではない。今回の特訓の目的は、シュート力の強化である。シュートの練習をしに来たのだ。
わたしは、一応、左右どちらにもボールにカーブをかけて蹴ることができる。いわゆるバナナシュートである。しかしながら、いざ試合になるとなぜかフカしてしまうことが多い。焦ってゴールの遥か上にいってしまうのである。決定力に欠けるのだ。
おかげで、チームメイトには、「サッカーでホームラン王を取るつもりかい?」なんて、よくからかわれてしまうのだ。それだけならまだしも、わたしのバナナシュートは、ニセモノだと言うのだ。たしかに蹴り方は独自に研究したものだ。しかし、「ナボナシュート」と言うことはないだろう。いくらなんでも。
わたしが行ったのは、ボレーシュートの練習だ。山の斜面からソリを滑らせ、それを打ち抜く練習である。ワールドカップでは、屈強な外人達を相手にしなければならない。しかも、俄然気合が入っている。かなり当たりが激しいのだ。その当たりをかわしたり、受け止めたりしながら、シュートを打たなくてはならない。その為の特訓なのだ。
ソリにはあまり可愛くない人に乗ってもらった。その方が練習になるからである。しかし、100km/hを超えるソリというのは、スゴイ迫力だ。いや、ソリじゃなくてボブスレーであった。わたしは、そのボブスレーに何度も弾き飛ばされながら特訓を行ったのだ。
そして、それはついに完成したのである。山の斜面から100km/hを超えるスピードで滑り落ちてくるボブスレーをかわし、あまり可愛くない人を打ち抜くことに成功したのだ。ボブスレーからあまり可愛くない人を打ち抜くシュートとなれば、それはもう、「ボブスレーシュート」と言うより他無いのだ。
さらに、もうひとつ必殺技も身に付けた。しかし、これは滅多なことでは使えない。なにしろ、相手を倒す為に自分も犠牲にしなければならないという技なのだ。どういう技かというと、相手DFに構わず、とにかく思いっきり飛び込んでヘディングするのだ。捨て身技である。「ダイイング・デッド」という必殺技である。必ず死にそうな技である。
特訓によりシュート力が増したわたしは、山を降りた。
時は流れて、今日は初戦。アルゼンチン戦である。日本のワールドカップ本戦の初陣でもある。記念すべき日だ。会場に合わせて、ソックスはかなり緩めのモノを履いた。超ルーズである。気合充分だ。
しかしながら、筋肉痛でピッチに立っていられそうもない。どうやら特訓のし過ぎのようだ。仕方が無いので、サロンパスを全身に貼って試合に臨むことにした。貼る全身である。
と言ったら、スタメンから外された。
気を取り直して、今日は第2戦。クロアチア戦である。クロアチアには昨年のキリンカップで勝ったとはいえ侮れない存在だ。というよりも、負ける可能性の方が高いのである。それくらいの強豪だ。今日こそは、試合に出場しなくてはならないのだ。
前回は、サロンパスを全身に貼って失敗した。今回は、その教訓を踏まえ、筋肉痛をあらかじめ治しておくことにした。温泉に行ったのである。おかげですっかり筋肉痛も癒えた。しかしながら、まだ不安である。試合前にもう一度風呂に入ってから、試合に臨むことにした。
会場のスタッフに風呂を沸かしてもらうように頼んだ。幸いこの会場は、「ナント立派な平城京」といって、日本史にも登場するほど、昔から日本と親交が深い。風呂の設備は整っていた。
ところが、やっぱ外国であった。風呂というものが、よくわかっていなかったのだ。風呂の湯が極端に熱いのだ。わたしは、思わず叫んでしまった。
風呂アチィやっ!!
すると、今日もスタメンを外されてしまった。
さて、今日はジャマイカ戦だ。ここまで2戦とも出場していないのだ。このまま、一戦も出場せずには、日本に帰れない。決勝トーナメントに進めなかったら、わたしのワールドカップは終わってしまう。世界の桧舞台に立てるラスト・チャンスかもしれないのだ。
だから、今日こそは試合に出なくてはならない。ちなみに、ここまでの成績は、クロアチアと並んで1勝1敗だが、得失点差で3位の位置に甘んじている。
|
アルゼンチン | クロアチア | 日本 | ジャマイカ |
勝点 | 得点 | 失点 | 得失点差 |
| アルゼンチン |
| −−−−−− | ○(2-1) | ○(3-0) |
6 | 5 | 1 | +4 |
| クロアチア |
−−−−−− | | ×(1-2) | ○(3-1) |
3 | 4 | 3 | +1 |
| 日本 |
×(1-2) | ○(2-1) | | −−−−−− |
3 | 3 | 3 | 0 |
| ジャマイカ |
×(0-3) | ×(1-3) | −−−−−− | |
0 | 1 | 6 | -5 |
クロアチアが負ければ、日本が引き分けでも決勝トーナメントに進めるが、クロアチアが引き分けると、日本は勝たなくては決勝トーナメントに進めない。もっとも、クロアチアが勝つとなると厳しい。得失点差でアルゼンチンを上回らなくてはならないのだ。4-0以上で勝つのは、いくらなんでも厳しいのだ。
もっとも、今日は当然勝つつもりでいる。勝って決勝トーナメントに進むのだ。「じゃ、まあいいか」では済まされない。たみおくんに、そう釘を刺されてしまったのだ。
ここまでの2戦を反省して、今日は何も喋らないことにした。そうしたら、さすがにスタメンに選ばれたのだ。これまでの特訓を無駄にならずに済んだ。わたしも、やる時はやるのである。
ホイッスルが鳴った。キックオフだ。最初のチャンスは、いきなり訪れた。前半開始1分、中田から絶妙なスルーパスが出た。わたしは、相手がオフサイドトラップをかけてくる瞬間を逆に利用し、飛び出すことに成功した。
しかし、いざシュートを打とうと瞬間、城にぶつかってしまったのだ。城も同じタイミングを狙っていたのである。わたしは、こう呟いた。
「スルーパス、お前もか?」
幸い、岡田監督には聞こえていなかったようだ。しかし、レフェリーが聞いていた。イエローカードをもらってしまった。
こうなると、もはや誰もパスを出してくれない。その一言もそうだが、MFがでしゃばる場面ではなかったからなあ。わたしは、フィールドで孤立してしまった。味方もパスを出さず、どいてくれといった感じで、わたしのそばをドリブルで突破していくのだ。孤独になったわたしは、思わずこう呟いだ。
「邪魔かい?」
2枚目のイエローをもらった。退場だ。そして、わたしのワールドカップは終わった。
というわけで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。
↑これは日記猿人のなんたらボタンである。
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