
第68回 97.09.07くらい 『海と永遠の愛』
夏も終わり、人のいなくなった海。あの日のことを思い出して行ってみました。
この季節の海は、とても静かで奇麗です。つい半月前までの喧騒なんて信じられません。青く済んだ海を見つめながら、砂浜に腰をかけて、物思いに耽っていました。
いつの間にか、辺りが暗くなり始めているのに気が付きました。日が暮れるには時間が早いと思って空を見ると、黒い雲が覆っていました。いまにも、夕立が来そうです。そろそろ帰ろうかと思い、立ち上がりかけたその時です。すっかりとどす黒く変わった海は、一瞬、波が消えたかと思うと、グングンと盛り上がりはじめたのです。
「何かいるっ!!」
そう叫んだ次の瞬間、それは姿を現わしました。5メートルはあろうかという大きな身体の生き物でした。全身が真っ黒な毛で覆われていました。そして、何やらうめき声をあげていました。
「海坊主?」
それの姿は、子供の頃に読んだ絵本に出てきたのとそっくりです。間違いありません。海坊主は、海から這い上がってきます。わたしのところに、向かってきているようです。わたしは、慌てて車に乗り込み、キーを捻り、一目散に逃げました。海坊主は、追いかけてくるようでしたが、さすがに車の速度には適いません。なんとか振り切るコトができました。
まだ心臓がドキドキしています。わたしは、すっかり喉が渇いてしまいました。ふと辺りを見ると、すぐそばには川が流れていました。奇麗な清流のようです。喉の渇きを潤そうと思い、車から降りました。
その時です。川の流れが一瞬止まったかと思うと、全身黒い毛で覆われた生き物が水面から顔を出してきました。さっきの海坊主です。いえ、川だから川坊主です。海から川を伝って追いかけてきたのでしょうか。川坊主は、やはりわたしの方に向かってきます。わたしは、急いで車に乗り込み逃げました。
もう、何が何だかわからなくなってきました。しかも、どうやら道に迷ったようです。今度は、湖のほとりに出ました。喉も渇いたままです。さすがに湖の水は飲めそうにありませんが、湖畔にはボート乗り場があり、缶ジュースの自動販売機がありました。コーラでも飲もうと自動販売機に近づこうとした瞬間です。
湖面が盛り上がり、全身黒い毛で覆われた生き物が現われました。ええ、さっきと同じ生き物です。今度は湖坊主です。やはり、川を伝って湖まで追いかけてきたのでしょうか。そしてわたしは、やはり車に乗って逃げました。
途中、沼には沼坊主、池には池坊主、タコにはタコ坊主……、色々出会いましたが、同じなので省略します。
それにしても、何故海坊主は、わたしを追いかけてくるのでしょう。そういえば、海坊主は、一度目を合わせると海に引きずり込むまで、執念深く追いかけてくるという話を聞いたことがあります。もう、わたしは逃れる事ができないのでしょうか!?
すっかり疲れ果ててしまいましたが、なんとかマンションまで辿り着くことができました。汗だくになった体をシャワーで洗い流そうと、お風呂場に入ったその時です。浴槽の水面が見る見る内に盛り上がり、黒い毛で覆われた生き物が現われました。
「家にまで出てくるなんて、もう終わりだわ」
そう思ったわたしは、逃げる事に諦らめてしまい、その場にへなへなと座りこんでしまいました。すると、その生き物はこう言いました。
「君の作った味噌汁を毎朝飲みたいなあ」
そう。これが風呂坊主の言葉だったのです。
というわけで、今日の分はおしまいだ。では、また会う日まで。
↑これは日記猿人のなんたらボタンである。
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